目次
時間がかかる
フェノールなどの大半の化学殺菌剤は
細菌を数分で殺すのに対して、
このカビの汁(ペニシリン)は
細菌を殺すのに何時間もかかることが
分かってきた。
効果がなくなる
俺たちの研究はここからだ!
フレミングはクラドック研究員に加え、
リゾチームの研究を行っていた
リドレー研究員にも
カビの汁に関する研究を行うよう命じた。
しかし、
フレミングは二人に研究を命じたものの、
不思議なことに
ロクな支援をしなかった。
彼らが使う実験台すら
用意してやることはなかったという。
無いんだな、机
二人は廊下に机を置いて、
近くの実験室から
長いゴム管をひいて
ガスを使えるようにした。
困難な状況にもかかわらず、
リドレーとクラドックの研究は進んだ。
二人は液体培地でアオカビを培養し、
約18℃の培養温度で
10日目の状態が
最も抗菌活性が高いことを突き止めた。
そして、そのカビの汁を
ろ過して固形物を除き、
40℃でカビの汁を減圧蒸留し、
水分を除いた。
すると、
黄色いネバネバしたカタマリが残った。
ペニシリンの精製
この黄色いネバネバした塊は
水分を除いただけであって、
まだ仮想の「ペニシリン」のほかにも
様々な不純物を含んでいた。
そこで、二人は
もしペニシリンが
タンパク質でできた酵素だとしたら、
タンパク質を分離する手法を使えば
ペニシリンが精製できるはず
と考えた。
酒のちから
一般に
タンパク質は水に溶けるが、
アルコールには溶けない。
したがって、タンパク質を
多くの非タンパク質と分ける簡単な方法は
混合物の水溶液に
アルコールを加えることである。
ペニシリンがタンパク質なら
アルコールには溶けずに
沈殿するはずだった。
二人はネバネバした塊に
90%アルコールを加えてみた。
すると、二人が予想したように
沈殿が生じた。
しかし・・・
沈殿のほうには抗菌活性はなく、
アルコールの上澄み液の方に
抗菌活性があったのである。
つまり、ペニシリンは
アルコールに溶けた。
クラドックとリドレーは
ある程度まで精製したカビの汁を
フレミングに提供することができた。
この粗精製ペニシリンは
3000倍以上に薄めても抗菌活性を示した。
しかし、
数週間かけて精製したこのカビ汁も
室温では数日のうちに
抗菌活性がなくなってしまった。
弱酸性にするといい
クラドックとリドレーは
さらに研究を行い、
液体培地のpHを
弱酸性(pH=6.5)にすると、
ペニシリンの抗菌活性が
数週間持続することを突き止めた。